礼拝メッセージ 1月15日
2021.1.16
Soshin Jogakko
「キリストの約束を信じて~分断ではなく平和を」
中1担任 杉山 知子
【聖書】ヨハネによる福音書16章33節
「これらのことを話したのは、あなたがたがわたしによって平和を得るためである。あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている。」
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皆さん、在宅学習日を有効活用していますか?
実は、数学という教科に関しては、この学習体制はチャンスなのです。
他教科に比べて「わかる」と「できる」の差が激しく、理解するスピードなど個人差も大きいからです。
4月5月のように全部在宅だときついですが、今のように、授業で説明を聞いて「わかる」まで質問しておき、家で自分のペースでじっくり課題に取り組んで「できる」ようにするのは理想的とも言えます。いつも提出期限に追われて適当にしてしまいがちな人は、時間をかけて練習して本当の力を身につけられますね。余裕のある人は、課題以外のもっと難しい問題にも挑戦できます。数学に限らず、何か自分でテーマを決めて研究してもよいかもしれません。
日本の中高生にとって、「自分でテーマを決めて研究する」というのはあまり日常的ではないですよね。部活や委員会活動で忙しく、自由研究も小学校で終わり、というイメージです。
ところが、アメリカには「サイエンス·フェア」という科学に関する自由研究を発表する大々的な場が小·中·高にあることを、冬休みに読んだ本で知りました。高校生になって地域の大会、州の大会と勝ち進むと、世界最大のサイエンス·フェアと呼ばれる国際学生科学フェア(ISEF)に出場できます。ISEFでは1人1つのブースを与えられて、世界中から集まった専門家に自分の研究を説明するとのこと。20以上の分野で合計3億円以上と賞金額もケタ違いで、ここで賞を取った若者の中からノーベル賞受賞者が何人も出ているそうです。
でも、一部のいわゆる理系オタクたちだけのイベントというわけではなく、たとえば女優·モデルとして活躍していた高校生が思いがけないテーマと出合って勝ち進む、というエピソードもありました。そういう意味では、この本の日本語タイトル「理系の子」はちょっとずれていて、副題の「高校生科学オリンピックの青春」の方が原題の「サイエンス·フェア·シーズン」(ジュディ·ダットン著)に近いかもしれません。
ISEFには日本からも代表が派遣されていて、毎年のように受賞者がいるそうです。この本の巻末付録として2011年にアメリカ地質研究所1等賞を受賞した千葉県の女子高校生の当時の手記が載っていますが、彼女がその研究を始めたのは中1の時だそうですよ。
2012年に出版されたこの本を2021年のこのタイミングで読んで、最も大きく心に残ったのは次の二つです。
まず、この本は2009年のISEFに出場したアメリカの若者たちを追っているドキュメントなのですが、実は2009年は唯一日本から代表を派遣しなかった年なのです。それは、アメリカを中心として新型インフルエンザがパンデミックになっていて、渡航を自粛したからです。(ちなみに2020年は5月にオンライン開催でしたから日本からも参加し、受賞したチームもあったそうです。)
2009年の新型インフルエンザは若者がかかりやすいと言われていて、日本で最初の感染者はカナダへ短期留学していた高校生たちでした。その学校の校長先生がテレビで泣きながら謝罪したのが当時有名で、そこに通っていた知り合いの子のお母さんが「うちの校長先生がかわいそうだ」と怒っていたのをよく覚えています。自粛警察的なムードがその頃もあったということですね。
夏前から捜真でもぽつぽつと感染者が出始めて、自然教室で数十人が感染したり若い先生が感染したりして一時は大騒ぎでしたが、日本では重症化する人が少なく、1年でほぼ沈静化しました。もちろん学校生活に今のような制限はありませんでした。
二つ目は、ISEF2009の出場者の一人がハンセン病だったということです。
BBというニックネームの16歳の女の子が診断を受けたときのお母さんの第一声、「まだハンセン病にかかる人がいるの?」が、まさに私の思いそのものでしでした。多磨全生園やハンセン病資料館に何度も行ったり話を聞いたりして、21世紀の今はよほど風土や衛生状態が悪い場合しか新たにかかる人がいないと思い込んでいたので衝撃的でした(実際、日本では新規感染者はほぼゼロ)。日本にも差別の歴史がありますが、アメリカでは聖書に親しんでいる分、根深い偏見があるそうです。らい菌という細菌は新型コロナや新型インフルエンザなどのウイルスとは異なり伝染力がきわめて弱いことや、ほぼ自然治癒すること、薬で伝染力は完全になくなることなどが、日本同様十分に知られてないのです。
毎週日曜日に礼拝出席するクリスチャンであるBBにとって、ハンセン病の知識は聖書のみ、それも悲惨なものばかりでした。恐れと悲しみのどん底に突き落とされた彼女は、気を取り直すとすぐに調べ始めました。結局、知識こそ力であり、事実を手に恐怖と戦うことを決意したのです。インターネットで調べ、本を読み、国立ハンセン病療養センターを訪れ、専門家に話を聞きました。ハンセン病について解明されていることはすべて、人間とアルマジロしかかからないことまで調べ尽くしました。そのうち、ドラマや映画など、いたるところで「『らい病患者』のように放り出す」のような悪い比喩としてハンセン病が取り上げられていることに気づいたのです。
そこからがBBのすごいところです。自分の次の課題は、ハンセン病に対する人々の誤解を解くことだと考えたのです。恐怖は感染症のように広がります。日本でも療養所に暮らしている元患者さんたちの多くは偽名ですし、アメリカでもハンセン病だということをほとんどの人が隠していて、知識のない医者がハンセン病患者を差別する例もあるそうです。そんな中、友人たちに「わたし、ハンセン病って言われちゃった。心配しないで。うつらないから。」と打ち明けたのです。
幸いあからさまな拒絶反応はありませんでしたが、無知ゆえに皆心配しました。彼女の病気の話はあっという間に広まり、脚の発疹をこっそり見られているのではないかと気になって黒タイツをはいた時期もありました。しかし、正しい知識が浸透するにつれ、「ハンセン病?クールだね!」みたいな感覚になっていったそうです。ハロウィーンの衣装をボロボロのローブを着て鈴を持った『らい病患者』(現在の新共同訳聖書では「重い皮膚病」となっている)にしたらどうかと提案してきたり、薬の副作用で尿がオレンジ色になると聞いて数人で個室についてきたり。そうこうするうちに発疹も消え、サイエンス·フェアに向けてハンセン病について一緒に研究しようと申し出る友人が現れました。この友人と二人で投薬によるらい菌の数の変化を調べる実験を重ね、州の大会へと勝ち進み、あらゆるメディアに取り上げられ、BBはついに国際学生科学フェア2009に乗り込むことになるのです。研究のくわしい内容は本を読んでくださいね。
12年前にもパンデミックがあったことを思い起こし、今でも病いそのものではなく無知と偏見にさらされて苦しむ人々がいることを改めて認識した私は、人間の弱さをつくづく思い知らされています。
私たちの体を作る細胞が日々新しくなるように、新たなウイルスが次々生まれています。環境破壊など大きく言えば人類が原因を作ったかもしれませんが、生きるために自粛要請に応じられない店の責任ではないし、ましてや留学を許可した校長先生のせいでもありません。
現在、医療従事者の方々が 感染力の強いウイルスと命懸けで闘い続けていらっしゃるのに、本人や家族が差別される事例が報道されています。一方、少なくとも日本では、ハンセン病に関わった医療従事者の中には一人もかかった人がいません。それほどまでに伝染力が弱いにもかかわらず、1996年にらい予防法が廃止されるまで危険手当が支給されていました。絶対安全なのにお金がもらえる、そのことを世間は知らない、知らせない方が得。それも廃止が遅れた理由の一つでした。とっくに治った方々が隔離され続け、世間は隔離が続いているから恐ろしい病気だと思い込まされていたのです。
他方で、本当に危険な福島の原発で命懸けの事故処理を続けていらっしゃる原発労働者の方々に、危険手当が支給されなくなっている現実もあります。最も危険な作業の多くは非正規雇用の方々が担っていて、1年間に浴びる放射線量の制限があるので雇用は不安定だし、政治の都合で待機させられても手当が出ない、経費削減で防護服や安全設備もどんどん劣悪になっていく。国の政策により稼働していた原発の後始末のため、制限があるとはいえ非常に高い線量を浴びているのに、病気になっても何の補償もないのです。危険手当もいらないくらいもう安全だ、オリンピックもできるくらいだ、とアピールする裏には、使い捨てにされている人々の存在があるのです。「ふくしま原発作業員日誌」もぜひ読んでください。図書館にあります。最初だけ英雄視され、次第に忘れられたり差別されたり···現在の医療従事者の方々に重なって、暗澹たる気持ちになります。
でも、若い皆さんがいる限り大丈夫です。
若者は経験や責任が少ない分、しがらみに縛られずに損得勘定を超えた発想や行動ができると思うからです。
BBはこう述べています。
「後悔ばかりして生きている人や、取り乱すばかりで問題解決に向けて一歩も踏み出さない人もいるでしょ。わたしは災難を引き寄せるタイプなんだけど、どんなときでも明るい面を見るようにしているのよ。」
ハンセン病にかかっても恥ずべきことではないと世界に訴えかえたBBは、「新しい挑戦を成し遂げるときに神を信じる心が勇気をくれた」とも語っています。同時に、窮地に追い込まれたときの救いは科学だったのです。
科学的な態度とは、「私は知らない」と謙虚に認識することだと思います。
知らないから調べ、知らないから学ぶ。
受け身でいるだけだと事実は隠されることもあるので、時には賢く疑う。
迷ったときはイエスさまを模範とする。
イエスさまは誰のことも、ハンセン病患者をも差別しませんでした。そのイエスさまが誰のことも見捨てないと約束してくださっています。キリストの復活が約束の証拠なのです。
だから、私たちは、キリストの約束を信じて喜んで今日の命を生き、分断ではなく平和を作り出していきましょう。
1月15日(金)中学部礼拝