図書館から本の紹介 6月9日

2020.6.10

Soshin Jogakko

『文房具56話』串田孫一 ちくま文庫

串田孫一さんのプロフィールには、随筆家·詩人·哲学者。登山、文芸誌『アルプ』創刊、大学教授、FMラジオ『音楽の絵本』のパーソナリティなど、多彩な活躍をされた。1915年生まれ、89歳で死去。とある。

私がお名前を知ったのは、大学時代に山登りをしていた時、本屋でみかけた『山のパンセ』。哲学的だが、スマートな文章を書く方だという印象だった。

最近、この本を店頭でみかけ、懐かしく思い手に取った。表紙や挿画に使われている木版画の雰囲気もよく、私も好きな文房具がテーマの短編集あったので期待が膨らんだ。期待通り、くすっと笑えるお話や、コロナ禍のいまだから余計に胸にささる一言なども登場し、明快な文章に「知性と教養」とはこういうものか、とほっとするやらがっかりするやら。

ともかく、文章を書こうと思っているがどのように書いてみたらいいのかと、考えあぐんでいる人は、読んでみることをお勧めする。お手絵本にするにはとても良い文章だ。
「お喋りの人の口にでも貼ったら効果があるかも知れない。」(「糊」より)
「これを使って、順に直角の線を引いて行くと必ず喰違いができる。」(「定規」より)
「洋服の埃とりは、まさか真の用途ではあるまい。」(「セロハンテープ」より)
など、辛口のところも魅力的である。
「物ではあっても付き合いが深くなると単なる物とは言い難い。」(「七つ道具」より)
「みんな落ちるところまで落ちると、却ってさっぱりしたような錯覚を抱いてしまう。」
たかが文房具、されど文房具。串田さんはこんな深い思いをもって、文房具を使っていらしたんだ、と最後の「文化を守る力」でとどめを刺される。

ラジオパーソナリティをされた『音楽の絵本』のYouTubeもお勧め。眠れない夜にいかが。

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